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大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)4038号・昭56年(ワ)4396号 判決

(昭和五六年(ワ)第四〇三八号事件)

一 請求原因1の事実(被告山崎が本件実用新案権を、被告丸万工業が本件専用実施権を有すること)、同2の事実(原告清水合金がロ号製品を業として製造・販売していること)は当事者間に争いがない。

二 そこで、ロ号製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かを検討する。

1 本件考案の構成要件を分説すると原告清水合金主張の(a)・(b)・(c)となり、本件考案の作用効果が同原告主張の(A)・(B)であり、ロ号製品の構成が同原告主張の(a)´´・(b)´´・(c)´´となることはいずれも当事者間に争いがない。

もつとも、被告山崎・同丸万工業は、請求原因に対する認否3(一)ないし(三)記載のとおり、本件考案の構造上の特徴、作用効果上の特徴、ロ号製品の構造上の特徴なるものを主張するところ、右主張がどのような趣旨でなされているのか必ずしも明らかでないが、いずれにしろ、右判示した本件考案の構成要件、作用効果、ロ号製品の構成を前提として、ロ号製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かを考察するのが相当であり、かつそれで十分であつて、右主張を考察の基礎に加える必要はない。のみならず、本件考案の構造上の特徴についての主張では、前記争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載されている「直径の大きな開口の弁座を有する弁座受け」なる事項が欠落しており、成立に争いのない甲第一号証(成立に争いのない乙第二号証に同じ、以下甲第一号証のみ掲げる、別添実用新案公報に同じ)によつて認められる本件考案にかかる明細書の考案の詳細な説明に照らしても、右主張を正当とする根拠は見出し難い。同様に、本件考案の作用効果上の特徴についての主張では、考案の詳細な説明で説明されていない弁箱内の水の凍結による体積膨張に基づく管路などの破損防止なる作用効果が付加されているが、これを付加することを正当とする根拠は見出しえない。また、ロ号製品の構造上の特徴についての主張では、前記争いのない別紙第二物件目録記載のロ号製品の構造に照らし、直径の小さな開口(32)を有する弁座(19)なる構成が一方的に無視されているのであつて、右主張は採用し難い。

2 右判示したところに従い、本件考案の構成要件(a)・(b)・(c)とロ号製品の構成(a)´´・(b)´´・(c)´´とを対比・検討する。

まず、構成(a)´´が構成要件(a)を充足することは明らかであり、当事者間に争いもない。

次に、構成(b)´´が構成要件(b)を充足するかについてみる。

ロ号製品の弁座(19)が直径の小さな開口(32)を有しているのに対し、本件考案の弁座が直径の大きな開口を有する点において、また、ロ号製品では、上蓋(31)が弁箱(1)上に弾発的に取付けられ、弁座受け(11)が上蓋(31)に摺動自在に取付けられるとともにスプリング(34)によつて常時下向きの力を作用させられている構成を採るのに対し、本件考案では、弁座受けが弁箱上に弾発的に取付けられるという構成を採る点において、それぞれ相違している。

そして、前掲甲第一号証によれば、本件考案は、自然流下導水管路などの調圧のために設けられる調圧空気弁に関するものであること、従来、管路内の空気を全面的に排出するようにした水道用空気弁には単口形のものと双口形のものとがあり、双口形のものは、急速な排気を行う必要がある場合に用いられるが、極めて構造が複雑で高価であることから、単口形のように簡単な構造で急速排気の可能な急排空気弁が考えられていたこと、この急排空気弁は、管路に接続された弁箱に直径の大きい排気孔を形成するとともにその内部にフロート弁と右排気孔を閉塞することのできる弁とを設けたもので、フロート弁の浮力に基づいて右弁が排気孔を閉塞する仕組みとなつており、管路内に空気があるときには排気孔が全面的に開放状態で急速な排気がなされ、管路内が水で満たされたときにはフロート弁とともに上昇する弁が排気孔を閉塞して密閉状態を維持するようになつているが、大径の排気孔が弁により急激に閉塞されることにより管路内にウオーターハンマーの現象を生じさせ、管路破裂などの事故を発生させ易いという重大な欠点があつたこと、本件考案は、構造簡単で急速排気が可能であり、かつウオーターハンマーの現象や高水圧を発生させない調圧空気弁をうることを目的としたものであり、前記実用新案登録請求の範囲に記載の構成を有し、管路内に空気が存するときにはフロート弁が下降して開口を開放状態にしておいて空気の排出を急速に行わせ、管路内に水が充満したときにはフロート弁が上昇して弁座に接合し、これにより開口を閉鎖するとともに、管路内の圧力が高いときには弁座受け自体を弁箱から浮動させてその隙間から溢水させることにより内圧を逃がし、管路に加えられる負荷を減少させるようにしたもので、これにより、前記の作用効果を達成するものであることがそれぞれ認められる(本件考案の実用新案公報(以下「本件公報」という)一欄二二行目から三欄六行目、四欄六行目から一三行目参照)。

右事実によれば、本件考案は、急速排気を目的とした双口形の水道用空気弁の改良にかかる前認定の急排空気弁にはウオーターハンマー現象の生じる欠点があつたことに鑑み、その欠点を是正する調圧空気弁として考案されたものである。したがつて、急速排気の出来ることがその必須の前提となるものであり、大径の排気孔、すなわち前記実用新案登録請求の範囲にいう、「直径の大きな開口」を設けることを必須の構成要件とするのである。

そうすると、ロ号製品は、直径の小さな開口を設けている点において本件考案の必須の構成要件を欠き、これに伴い、急速排気可能との本件考案の奏する作用効果(B)を有しないことが明らかであるから、その余の点につき検討するまでもなく、構成(b)´´は構成要件(b)を充足しない。

被告山崎・同丸万工業は、本件考案の「直径の大きな開口」がウオーターハンマー現象を生じさせる程度の直径の大きな開口を意味し、「急速排気」がウオーターハンマー現象を生じさせる程度の急速な排気を意味するとか、本件考案の要旨は、弁箱内にフロート弁を上下動自在に挿入し、このフロート弁が接口する排気口を有する弁座受けを弁箱上に弾発的に取付けることにある、すなわち弁座受けに設けられた弁座の開口の直径が大きいか小さいかは本件考案の要旨に含まれないとか、本件考案の明細書にいう「直径の大きな開口の弁座を有する弁座受け」、「空気の排出を急速に行なわせ」などの記載はその優れている点を強調したにすぎないとか、大小種々の開口の空気弁が本件考案出願当時既に公知公用となつていたから右公知公用部分を除外して新規な技術思想の趣旨を明らかにすべきであるとか主張する。しかし、右主張は前認定事実に照らし、理由のないことが明らかである。前掲甲第一号証を参照しても、本件考案の明細書に右主張を支持するような記載はなく、その他右主張を支持するに足りる適切な証拠はない。なお、公知公用部分を除外して新規な技術思想の趣旨を明らかにすべきであるとの主張は、登録実用新案の技術的範囲を判断するに当たつて右の点も一般的解釈基準となる、という意味において正当であるが、右主張が「直径の大きな開口の弁座」部分を本件考案の構成要件から外すことを意味するならば、有機的に結合し一体とされている技術をほしいままに分解し別個なものとしてしまうことになり、しかも、構成要件を減少すればそれだけ限定がなくなり、その技術的範囲が広くなることは見易い道理であつて、これが不当であることはいうまでもない。また、弁座の開口が小さい場合はこれが大きい場合に比して同量の空気の吸排に際し開口を通過する空気の速度が早くなるだけであるとの主張については、そのような理由によつて開口の小さいロ号製品が開口の大きい本件考案と同等の急速排気をなしうるとはとうてい考えられない。

これを要するに、本件においては、本件考案の実用新案登録請求の範囲に、「直径の大きな開口の弁座を有する弁座受け」なる構成が明記され、考案の詳細な説明において同構成を採用する目的とこれによる効果が説明されている以上、本件考案の技術的範囲は、同構成を含む実用新案登録請求の範囲の記載によつてその範囲を画されているとみるほかはなく(実用新案法二六条で準用する特許法七〇条及び実用新案法五条四項参照)、したがつて、ロ号製品のごとく直径の小さな開口の弁座を有する弁座受けの空気弁は、本件考案の技術的範囲から除外されている、と解釈せざるをえない。

3 被告山崎・同丸万工業の均等の主張について

前判示のとおり、本件考案は、「直径の大きな開口の弁座を有する弁座受けという構成」を採用することにより、急速排気が可能であるとの作用効果を奏するものであるがロ号製品は、直径の小さな開口(32)の弁座(19)を有する弁座受け(11)という構成であるから、(b)の構成要件所期の右作用効果を奏していない、と解される。したがつて、「直径の大きな開口」を「直径の小さな開口」に置き換えることが容易であるとしても、作用効果を異にする以上、ロ号製品の右構成をもつて本件考案の右構成要件部分の単なる設計変更ないし均等物と解することはできない。右主張は理由がない。

4 以上のとおり、ロ号製品は、構成(b)´´が本件考案の構成要件(b)を充足せず、構成要件(b)によりもたらされる作用効果(B)を有しないし、均等ということもできないから、その余の点につき判断するまでもなく、本件考案の技術的範囲に属しないというべきである。

以上の説示に反する乙第五号証の一の見解は採用しない。

三 そうすると、原告清水合金が業としてロ号製品を製造・販売することは、なんら被告山崎の本件実用新案権、被告丸万工業の本件専用実施権を侵害するものではない。

被告山崎・同丸万工業が原告清水合金に対して請求原因4記載の通告をしたことは当事者間に争いがなく、同被告らにおいてロ号製品が本件考案の技術的範囲に属すると主張し争つていることは、弁論の全趣旨により認められる。

しかし、右被告らが右原告の取引先に請求原因4記載の事実を流布して同原告の営業を妨害したとの点は、これを認めるに足りる証拠がない。

四 よつて、本訴請求のうち、原告清水合金が被告山崎・同丸万工業との関係で、ロ号製品の製造・販売について、本件実用新案権、本件専用実施権に基づく差止請求権の存在しないことの確認を求める部分は理由があるが、同原告が同被告らに対して虚偽事実の陳述流布行為の差止めを求める部分は理由がない。

(昭和五六年(ワ)第四三九六号事件)

一 請求原因1の事実(原告丸万工業が本件専用実施権を有していること)及び同2の事実(本件考案の構成要件・作用効果がその主張のとおりであること)は当事者間に争いがなく、本件考案の構造上の特徴及び作用効果上の特徴についての同原告の主張が理由のないことは、昭和五六年(ワ)第四〇三八号事件において判示したとおりである。

次に、請求原因3の事実(被告清水合金がイ号製品、ロ号製品、ハ号製品を業として製造・販売していること)、及び請求原因4の右各製品の構成の分説のうち、イ号製品の(a)´・(b)´、ロ号製品の(a)´´・(b)´´、ハ号製品の(a)´´´・(b)´´´に関する部分は当事者間に争いがなく、右争いのない別紙第一ないし第三物件目録記載のイ号製品、ロ号製品、ハ号製品の構造によれば、イ号製品の構成(c)´、ロ号製品の構成(c)´´は、ともに、「以上を特徴とする凍結破損防止型単口空気弁であること」とすべきであり、ハ号製品の構成(c)´´´は、「以上を特徴とする急吸排凍結破損防止型空気弁であること」とすべきである。そして、右各製品の構造上の特徴についての原告丸万工業の主張は、昭和五六年(ワ)第四〇三八号事件で判示したのと同様の理由により、これを認めることができない。

二 そこで、イ号製品、ロ号製品、ハ号製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かを検討する。

1 ロ号製品が本件考案の技術的範囲に属しないことは、昭和五六年(ワ)第四〇三八号事件において判示したとおりであるが、イ号製品は、構成(b)´<2>が付加されているほかはロ号製品とその構成が全く同一であるから、同事件において判示したのと同様の理由(構成(b)´は構成要件(b)を充足しない、作用効果(B)を有しない、均等物でない)により、本件考案の技術的範囲に属しないものと解する。

2 ハ号製品について

(一) 構成(a)´´´においては、フロート弁(7)のほかにプレート型フロート(34)が上下動自在に挿入されている。原告丸万工業主張のように、プレート型フロート(34)をフロート弁(7)が接合する(フロート化した)弁座とみれば、ハ号製品は、弁箱(1)内にフロート弁(7)を上下動自在に挿入したことに変わりはないから、本件考案の構成要件(a)を充足することになる。

(二) 構成(b)´´´と構成要件(b)との対比において、原告丸万工業は、構成(b)´´´のプレート型フロート(34)を、構成要件(b)のフロート弁が接合する弁座に該当すると主張するようであるが、構成(b)´´において構成要件(b)の弁座受けに該当するものが何であるかについての同原告の主張は明確でない。右弁座受けに該当するものは構成(b)´´´には存在しないので、この点において構成(b)´´´は構成要件(b)を充足しないというほかはない。もつとも、ピストン(40)が弁座受けに該当すると解しえないでもないが、構成(b)´´´は、ピストン(40)が上蓋(31)の内面に形成された膨張吸収室(39)内においてバネ体(37)により弾発的に支持されて内装され、上蓋(31)が弁箱(1)の上面に固定・設置されているが、この点において、弁座受けが弁箱上に弾発的に取付けられるとの本件考案の構成要件(b)と異なる。ハ号製品は、右異なる構成を採ることにより、バネ体(37)の圧縮とピストンの上昇に伴なう内容積の増加によつて内圧を吸収するのであつて、本件考案のように、弁座受けを弁箱から浮動させてその隙間から溢水させることにより内圧を逃がし圧力上昇を吸収する、との作用を有しないのである。同原告は、右相違を認めながら、圧力吸収の原理・作用効果は同一であると主張するが、圧力吸収の原理が同一であるとは解されない。いずれにしても構成(b)´´´は構成要件(b)を充足しない。

(三) したがつて、ハ号製品は本件考案の技術的範囲に属しない。

以上の説示に反する乙第五号証の二の見解は採用しない。

三 そうすると、被告清水合金がイ号製品、ロ号製品、ハ号製品を業として製造・販売することは、なんら本件専用実施権を侵害するものではないから、これが侵害に当たることを前提とする原告丸万工業の被告清水合金に対する請求は、この点において既に理由がない。

(結論)

よつて、昭和五六年(ワ)第四〇三八号事件の原告清水合金の請求のうち、本件実用新案権・本件専用実施権に基づく差止請求権不存在確認請求は正当として認容し、その余の請求は失当として棄却し、同年(ワ)第四三九六号事件の原告丸万工業の請求はすべて失当として棄却する。

〔編註その一〕本件登録実用新案に関する事項は左のとおりである。

1 被告山崎は、別紙(一)記載の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有しており、被告丸万工業は、本件実用新案権につき別紙(二)記載の専用実施権(以下「本件専用実施権」という)を有している。

2 原告清水合金は、別紙第二物件目録記載の物件(以下「ロ号製品」という)を業として製造・販売している。

3 ロ号製品は、本件考案の技術的範囲に属するものではない。すなわち、

(一) 本件考案の構成要件は次のとおりである。

(a) 管路に接続された弁箱内にフロート弁を上下動自在に挿入したこと。

(b) 右フロート弁が接合する直径の大きな開口の弁座を有する弁座受けを右弁箱上に弾発的に取付けたこと。

(c) 以上を特徴とする調圧空気弁であること。

(二) 本件考案の作用効果は次のとおりである。

(A) 弁箱内を上下動するフロート弁により開閉される開口が形成された弁座受けを弁箱に対して弾発的に取付けたので、フロート弁が弁座に接合して開口を閉塞した瞬間に高まる内圧は、弁座受けが上昇することにより一定値以下に押えることができ、これにより管路内にウオーターハンマーの現象が生じることがなく、管路の各部を有効に保護することができる。

(B) 急速排気が可能である。

(三) ロ号製品の構成は次のとおりである。

(a)´´ 管路に接続された弁箱(1)内にフロート弁(7)を上下動自在に挿入したこと。

(b)´´ フロート弁(7)が接合する直径の小さな開口(32)の弁座(19)を有する弁座受け(11)を、内面に空気室(35)が形成された上蓋(31)の中央部に上下方向に摺動自在に取付けるとともに、弁座受け(11)にはスプリング(34)によつて常時下向きの力を作用させ、上蓋(31)を弁箱(1)上に皿バネ(38)を重ねて形成したバネ体(37)によつて弾発的に取付けたこと。

(c)´´ 以上を特徴とする凍結破損防止型単口空気弁であること。

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

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